労働判例〜賃金や賞与、退職金

労働に関する判例について

労働判例案内人

労働者と使用者の間では様々なトラブルが起きることが考えられます。
そのトラブルの内容が労働基準法等にて明確に規定されていれば法に従うことで問題が解決するかもしれませんが、労働問題の多くは簡単には解決しないものです。
平成13年に個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律が施行されて以降、公的な労働相談機関に対して数多くの労働相談が行われていますが、その多くは民事に関するものといわれています。
これら民事上の労働トラブルを解決するための1つの方法として過去の判例を確認することがあります。
労働問題はケースバイケースなので判例の内容が当てはまるとは限りませんが、十分参考になると考えます。


就業規則の法的性質と不利益変更

労働判例案内人

労働判例において、就業規則の法的性質と不利益変更は十分確認しておかなければならない事項であり、それを確認できる代表的な判例として秋北バス事件を紹介します。

 

 

秋北バス事件

・最高裁大法廷判決 昭和43年12月25日

 

(事件の概要)
1.本事件は、従来主任以上の職にある労働者に対しては停年制の適用がなかったところ、主任以上についても就業規則の変更により停年制が適用され、その効力が争われた事件である。

 

2.就業規則変更前{昭和30.7.21施行}
「従業員は満50歳を以って停年とする。
停年に達したる者は辞令をもって解職する。
但し、停年に達したる者で業務上の必要ある場合、会社は本人の人格、健康及び能力等を勘案し選考の上、臨時、又は嘱託として新たに採用することがある」

 

就業規則変更後{昭和32.4.1改正}
「従業員は、満50歳を以って停年とする。
停年に達した者は退職とする。」

 

3.会社は、上告人労働者に対して、昭和32年4月25日、既に満55歳の停年に適していることを理由に、同年5月25日付けで退職を命ずる旨の解雇の通知をした。

 

(下級審の判決)
1.秋田地裁判決 昭和37.4.16
要旨
@就業規則は、使用者が一方的に制定変更し得るも、不利益変更は同意無くなし得ない。
A停年制の新設は、不利益変更を意味し、不同意の労働者には適用されない。

 

2.仙台高裁秋田支部判決 昭和:39.10.26
要旨
@就業規則は経営権に基づく経営内法規で、不利益変更により労働契約は変更を受ける。
A既存の労働契約に年齢的制限を加えた不利益改正なるも、不同意者にも効力が及ぶ。

 

(最高裁大法廷判決)
1.就業規則は、合理的な労働条件を定めている限り、経営主体と労働者との間の労働条件は就業規則によるという事実たる慣習が成立しているものとして、法的規範性が認められるに至っていると解すべきで、労働者が就業規則の存在及び内容を現実に知っているか否かにかかわらず、また、これに個別的に同意を与えたかどうかを問わず、当然にその適用を受ける。

 

2.新たな就業規則の作成・変更によって、既得の権利を奪い、不利益な労働条件を一方的に課することは原則として許されないものと解するも、労働条件の集合的処理、特に統一的・画一的な決定を建前とする就業規則の性質からいって、当該就業規則条項が合理的なものである限り、個々の労働者において、不同意を理由にその適用を拒否することは許されないものと解すべきである。

 

3.労働契約に停年の定めがないということは、終身雇用を保障したり、将来ともに停年制を採用しないということを意味せず、俗に「生涯雇用」といわれていることも法律的には、労働契約や就業規則に別段の規定がない限り、雇用継続の可能性というものであり、その旨の既得権ではないから、停年制がなかった主任以上についての停年制の新設は、既得権の問題にはならない。

 

4.停年制は一般的には不合理な制度ではなく、55歳も相当であり、変更条項は「停年解雇制」の形態で定められ、労働基準法20条の適用を受け、また、再雇用の特則を設け、再雇用の提案もなされている。
これらを総合考較すれば、変更された就業規則条項は不合理ではなく、変更後直ちに適用される労働者に対する関係において、信義則違反・権利濫用とは認められず、適用を拒否できない。

 

(就業規則の法的性質と不利益変更に関する要点)

・近代企業における労働条件の決定
多数の労働者を使用する近代企業において、その事業を合理的に運営するには多数の労働契約関係を集合的・統一的に処理する必要があり、この見地から労働条件についても統一的かつ画一的に決定する必要が生じる。
そこで労働協約や就業規則によって、まず労働条件の基準を決定し、その基準に従って個別的労働契約における労働条件を具体的に決定するのが実情である。

 

・就業規則の法的性質
1.ところで、ここでいう就業規則(就業規則の中には労働条件に関する定めのほか、工場・事業場等における管理規律ともいうべき定めを合んでいるのが通例であるが、後者は、一応、ここでは除外して考えることとする。)は、どのような性質を有するか、さらに、経営主体は一方的に労働者の不利益にこれを変更できるかが問題となる。
これらの点について、当裁判所は次のように判断する。

 

2.元来、「労働条件は、労働者と使用者が、対等の立場において決定すべきものである」(労働基準法2条1項)が、多数の労働者を使用する近代企業においては、労働条件は、経営上の要請に基づき、統一的かつ画一的に決定され、労働者は、経営主体が定める契約内容に従って、附従的に契約を締結せざるを得ない立場に立だされるのが実情であり、この労働条件を定型的に定めた就業規則は、一種の社会規範としての性質を有するだけでなく、それが合理的な労働条件を定めているものである限り、経営主体と労働者との間の労働条件はその就業規則によるという事実たる慣習が成立しているものとして、その法的規範性が認められるに至っている(民法92条参照)ものということができる。

 

3.そして労働基準法は、このような実態を前提として後見的監督的立場に立って、就業規則に問する規制と監督に関する定めをしているのである。
すなわち同法は、一定数の労傷者を使用する使用者に対して、就業規則の作成を義務づける(89条)とともに、就業規則の作成・変更に当たり、労働者側の意見を聴き、その意見書を添付して所轄行政庁に就業規則を届け出(90条)、かつ、労働者に周知させる方法を講ずる(106条1項、15条参照)義務を課し、制裁規定の内容についても一定の制限を設け(91条)、しかも就業規則は、法令又は当該事業場について適用される労働協約に反してはならず、行政庁は法令又は労働協約に抵触する就業規則の変更を命ずることができる(92条)ものとしているのである。
これらの定めはいずれも社会的規範たるにとどまらず、法的規範としての拘束力を有するに至っている就業規則の実態に鑑み、その内容を合理的なものとするために必要な監督的規制にほかならない。
このように、就業規則の合理性を保障するための措置を講じておればこそ、同法は、さらに進んで、「就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については無効とする。この場合において無効となった部分は、就業規則で定める基準による。」ことを明らかにし(93条)、就業規則のいわゆる直律的効力まで肯認しているのである。

 

・就業規則の知不知および個別的同意の有無とその適用
上記のように、就業規則は当該事業場内での社会的規範たるにとどまらず、法的規範としての性質を認められるに至っているものと解すべきであるから、当該事業場の労働者は就業規則の存在および内容を現実に知っていると否とにかかわらず、また、これに対して個別的に同意を与えたかどうかを問わず、当然に、その適用を受けるものというべきである。

 

・労働条件に不利益を課す就業規則の作成・変更の可否
1.就業規則は、経営主体が一方的に作成し、かつ、これを変更することができることになっているが、既存の労働契約との関係について、新たに労働者に不利益な労働条件を一方的に課するような就業規則の作成又は変更が許されるであろうか、が次の問題である。
2.おもうに、新たな就業規則の作成又は変更によって既得の権利を奪い、労働者に不利益な労働条件を一方的に課することは、原則として、許されないと解すべきであるが、労働条件の集合的処理、特にその統一的かつ画一的な決定を建前とする就業規則の性質からいって、当該就業規則が合理的なものである限り、個々の労働者において、これに同意しないことを理由として、その適用を拒否することは許されないと解すべきであり、これに対する不服は、団体交渉等の正当な手続による改善にまつほかはない。
そして、新たな停年制の採用のごときについても、それが労働者にとって不利益な変更といえるかどうかは暫くおき、その理を異にするものではない。